俺の名前は田中。
ごく普通の、某小説サイト好きな高校2年生だ。
その小説サイトで気になった作品がある。
「王〜崩落した世界より〜」だ。
結末は主人公2人共死に、救いようのないBADエンドで、妙に印象に残っている。
しかも信じられないのだが、作者のあとがきによるとこの小説にはどうやら続きがあるらしい。
あの後からどう続くのか、とても想像ができない。
どう続けるつもりだ……?
俺は興味本位で「王〜崩落した世界より〜」をブックマークした。
……それから1年。
俺は俺の日常を過ごす。
学校に通い、いつも通りの日常を。
俺はいつも思っていた。
小説のような心踊る非日常が自分に巻き起こらないだろうか。
だが、現実はそう簡単に非日常は起こらない。
平凡な日々が続くだけ。
ダラダラと続くだけ……。
家に帰宅後、いつもの小説サイトを開く。
更新は……ない。
「王〜崩落した世界より〜」の更新はあれから1年以上ない。
そうか……もう、一年たったか……。
小説の投稿日付を見ながら、そう思った。
「さて、もうそろそろ潮時か…」
俺は「王〜崩落した世界より〜」のブックマークを外そうと操作した。
その時。
パソコンの画面が歪んだ。
……いや、大きくなった。
かと思った瞬間。眩い光が俺を包んだ。
「!」
俺は咄嗟に目を手で覆った。
次の瞬間……。
俺の目の前には信じられない光景が広がっていた。
「この景色は……!」
そう、紛れも無い、この景色は、「王〜崩落した世界より〜」の火ノ国であった……。
「ま、まさか…!」
俺は目の前に広がる広大な景色に思わず唾を飲み込んだ。
雲と青い空が広がり、火ノ国はその空に浮かぶ天空要塞だった。
「どうかしましたかな?我が右腕、ルドウィンよ。」
「…!」
俺はルドウィンなのか…!
となると、俺に今話しかけたのが火ノ国、国王陛下……か。
俺は状況を飲み込むため、頭をフル回転させた。
おそらく俺は、今、小説「王〜崩落した世界より〜」の登場人物、火の国国王陛下の右腕、ルドウィンとして、小説内の世界に転生してきた。
そして、目の前にいるのは火の国の国王陛下。
さすがに、某有名サイトをいつもみていることもあって、俺は、異世界転生の飲み込みは早いのだ。
「…」
「あ、ルドウィン、その手に持っているもの、王宮の王立図書館から持ち出したのかな?本は原則持ち出し禁止ですぞ?」
「?本?」
俺は言われて、視線を落とした。
すると……俺は一冊の本を持っていた。
『王〜崩落した世界より〜』
「これは!?」
そう、俺が持っていたのはこの世界の題名の本。
慌てて読んでみた。
内容は……少し変わっているが、大まかに俺が知っている小説の内容と一致する。
「ルドウィン、その本は、みたことがないが……、多分王立図書館のものだろう?後で王立図書館に戻しておいてくださいな。では、私は最愛の息子が呼んでおりますのでな。先に失礼いたしますぞ。」
「……。」
俺はもう一度この本でこの世界のあらすじをざっと読み返した。
1 天界の国王の息子が国王の試練を受ける。
2 その最中に地上に住む人間が天界を滅ぼし、BAD ENDだ。
このBAD ENDルート通りだと、俺は早くのうちに死ぬことになる。
そんなのは嫌だ。
せっかく念願の異世界転生をしたのだ。
元いた現代の知識を持って、この世界をHAPPYエンドに導き、俺の過ごしやすい世界に変えてやろうではないか!
そのためには戦争が起こってはならない。
まず、未来に起こる戦争を回避しなくでは!
戦争への流れを止めるには、おそらくこの後の天界で起こる、国王の試練を中止にし、地上の人間との戦争に備える……。もしくは、地上との和解の道を模索するのが最善だ。
そうと決まれば、時間は限られている。
即行動だ。
「国王陛下、お待ちください。」
「なんじゃ?息子とのスキンシップが待っておるのじゃが…」
「国王陛下、右腕として、友人として進言いたします。息子の国王の試練を中止してください。」
「……なんじゃと?」
国王の顔色が変わった。
「とある情報筋より、地上人が、天界人を滅ぼす計画が着々と進められていることを知りました。ご子息様の国王の試練の時に軍事行動する計画です」
「……。」
「おそらく、国内、もしくは同盟国内に、地上人との内通者がいるものかと……。そうでなければこの計画は立てられません。」
「そうだな……。」
国王は一息つき、言った。
「断固として、断る。」
「え……?」
国王は呆れたように言った。
「お主は確かにわしの優秀な右腕じゃ。そして、信頼のおける一番の部下である。だが、その出所不明の情報のため、息子の…大事な後継の王位継承の儀式を中止にすることはできん。たとえお主の言い分であったとしてもじゃ。」
「陛下……。」
そうか。冷静になれば俺でもわかる。
いちいち部下の言うことを間に受け、さらに出所不明の情報に踊らされたとなれば、国の威厳が落ちる。
時に、王は反対を押し切り、強引に押し通すことも必要なのだ。
それが国の本質に関わる、「伝統」的な儀式なら尚更だ。
「……。」
「……と、本来ならこう言うところじゃが、わしに考えがある。」
「?」
「どうもお主の言っていることは嘘をついていないように感じる…気がかりなこともあるしな……そこで、わしがお主に命ずる。」
国王が手を差し伸べた。
「お主に特別な任務じゃ。右腕として、今から秘密裏に動き、地上の観察、および敵対者の排除、戦争にならないように工作員として動いてほしいんじゃ。」
「……陛下……。」
おそらくこれは大変な任務になるだろう。
しかし、せっかく転生したのだ。
そして初めての仕事がもらえたのだ。
この仕事は俺がこの世界で生き残り、この小説をHAPPYエンドへと導く足掛かりになるであろう。
断る理由は……なかった。
「陛下、その任務、謹んでお受けいたします。」
「よろしく頼むぞ、ルドウィンよ。」
国王陛下は俺、ルドウィンと硬い握手をしたのであった。