ルドウィンたちはあの後、化け物狩りの依頼を受け、手加減のコツを習得したリリアリーのおかげで、たくさんお金を稼ぐことができた。
その稼いだお金を使い、ルドウィンたちはイアの歓迎会を飯屋で行っている。
イアが仲間に加わった。
貴重な初めての地上人の仲間だ。
なので、歓迎会のついでに、何か地上のことについて知っていることを話してもらい、地上の情報収集をすることにした。
「イア、ご飯中すまないが、質問に答えて欲しい。」
「わかった!」
たくさんの食べ物に囲まれ、嬉しそうなイアが元気よく返事をした。
「自分が生まれ育った故郷のことを話して欲しいんだ。」
「!」
イアの表情が変わった。今まで嬉しそうだった顔が豹変、警戒する顔つきになった。
「い…言いにくいなら、故郷のことでなくても、この世界について知っていることを話してくれ。」
「……。」
ますます警戒している。これは話してくれなさそうだ。
しかし、故郷について聞いたのは不味かっただろうか。
確かに、イアは奴隷だ。故郷で辛いことがあったのだろうか?
ルドウィンは軽率なことをしてしまったかもしれない。
そう考えていると、リリアリーがルドウィンに話しかけてきた。
「……あまり、イアをいじめないでください。ルドウィン殿。」
「え?いや、そういうつもりでは……」
「いいえ。イアはまだ怖いんです。そんなルドウィン殿の恐い顔で質問されたら、誰だって黙ってしまいます。」
「え……」
ショック。恐いか?俺の顔……。
「そうですよね、イア。大丈夫。お姉ちゃんたちが恐いにいちゃんから守りますからね。」
「……。」
これでは完全にルドウィンが悪者だ。イアの表情から警戒感が薄まった。
「イアちゃん可愛いですね。私も食べ物をあげます!!」
「あ、ルーナ!まだ私のものを食べてるんです!」
……女性陣がいてくれてよかった。
ルドウィンだけだとイアに懐かれなかったかもしれないな。
きゃっきゃしている女性陣をよそに、猫(ティルシー)はその女性陣に混じらなかった。
「お前は混じらなくて良いのか?ティルシー。」
「にゃ?私は愛(め)でられる方にゃ。愛(め)でる方ではないにゃ。」
その理屈はわからんが。
まあ、兎にも角にも、イアがいてくれたことにより、仲間の雰囲気が良くなった気がした。
さて、リリアリーの活躍により、この街の化け物狩りの依頼はほとんどなくなってしまった。
なので、もう次の街へ向かい、化け物狩りの依頼をし、お金稼ぎをしようか。
懐事情は良くなってきたが、何せティルシーがよく食べる。
貯金が多いことに越したことはないのだ。
ルドウィンたちはイアの歓迎会を終え、次の街へ向かった。
ここらの周辺の地図とコンパスも購入しているので、次の街に着くまで、道に迷うことはないだろう。
そう思いながら次の街を目指して仲間と徒歩で歩いていたところ、またも数人の悪党が話しかけてきた。
「金を出せ!さもなくば痛い目を見るぞ?」
懲りないな……まあ、ルドウィンたちの仲間は男1人、女3人、少女1人だ。しかも身なりも良いし、子供もいるので、子供を守りながら戦うとなると不利になる。そう考えて声をかけたんだろうが……。
「リリアリー、頼む。」
「合点承知!」
ルドウィンたちにはリリアリーがいる。しかも前回襲われたリリアリーとは違い、手加減を覚えたリリアリーだ。人目を気にせず、存分に戦うことができる。
リリアリーが良い手加減で、悪党を薙ぎ倒していった。
「くそ!こうなったら!」
悪党の一人が、一番弱そうで少女のイアを人質に取った。悪党がニヤリと笑った。
「おい!この少女がどうなっても良いのか?金を出せば少女を解放してやろう!」
「‼️」
リリアリーの動きが止まった。
……なんか嫌な予感がする。リリアリーが怒っているようだ。
シュン
何かが風を切る音がした。
ルドウィンには全く何も見えなかったが、気づくと、ドカンという音と共に、悪党が吹っ飛んでいた。
「ひいいい!!」
悪党が怯える。
それもそのはず、リリアリーは、自分が可愛がっている少女を人質にして、金銭を脅迫してきた悪党どもに対し、かなり怒っていたのだ。
リリアリーの顔は、怒りで歪み、とんでもない形相だった。
「ごめんなさいいい!許してください!!」
悪党がそう言いながら、我先にと逃げていった。
「大丈夫?怪我はない?イア?」
まるで仏のようなイアを気遣う顔になり、イアを心配するリリアリー。
ルドウィンは、その様子を見て、リリアリーを怒らせないことを固く決心したのだった。
その後は何も起きることなく、無事、次の街へ着いた。
今回の街は前回の街ほど豊かではなさそうだが、それでも発展している街だった。
人も多く、賑わっていた。
ルドウィンたちはギルドに向かい、ギルドで募集している依頼リストの木簡を見ていた。
今回も化け物狩りをたくさん行い、お金を稼ごう。
そう思っていた時、ドサリと後方から音がした。
「イアちゃん!大丈夫!?」
リリアリーの悲鳴。
何が起きたか、振り返ってみると、イアが倒れていた。
苦しそうな顔をしている。
頭を触ると、熱がありそうだ。
「すみません、ギルドの方、ここら辺で医者はいますか?」
「え、ええ。この街にお医者様はいらっしゃいます。すぐ手配しますか?」
「頼む。」
ルドウィンはイアを担ぎ、安静にできそうな場所に横にして、持ち物からタオルを取り出し、バケツをギルドから借り、バケツに水を溜め、タオルを浸し、絞って、濡れたタオルをイアの頭にのせた。
少し待っていると、医者が来て、診察を行った。
「これは、流行り病ですね。」
「流行り病?」
「ええ。ここら辺の地域で流行っている病です。適切な薬を飲んで安静にしたら治りますが……」
すると、医者が困った顔をした。
「しかし、今、この薬は値段が高騰していて、入手困難なのです。」
「なぜだ?」
「流行り病の薬なので需要がたくさんあり、さらに最近ここら辺に住み着いた鬼族のせいで、交通網が麻痺し、供給が間に合っていないのです。」
「鬼族……。」
「私、鬼族を討伐します。鬼族の住処を教えてください。」
「リリアリー、待ってくれ。」
ルドウィンは前のことを思い出していた。
龍神のことだ。鬼族にも鬼神のような強い上位種がいるかもしれない。
ルドウィンたちが行っても、勝てる見込みがない敵かもしれない。
そう考えていると、リリアリーが話しかけてきた。
「ルドウィン。あれこれ考えて行動しないより、行動してからあれこれ考えた方が良い場合もあります。イアは仲間です。仲間が苦しそうです。イアの病気が悪化するかもしれません。これ以上に、鬼族を倒す動機などありません。」
「……わかった。」
リリアリーの言う通りだ。イアは最近仲間になったとはいえ、大切な仲間だ。仲間のためなら、1つや2つの困難など、乗り越えてやるさ!
ちらりとイアを見る。
とても苦しそうだ。かわいそうに。奴隷市場に出品され、慣れないことがたくさん起こり、ストレスから免疫力が下がり、流行病がうつってしまったのだろう。
よし、わかった。イアのためなら。
もう油断はしない。
最初から全力を出す。
だからもう、負けない。
「ああ。鬼族を倒しに行こう!イアのため、仲間のため、鬼退治だ!!」
コメント