【長編小説】BADEND小説の世界に、小説の登場人物として転生した結果。〜全てを知る俺がこのBADEND小説をHAPPYENDへ〜10話

「ふっ、まあ、貴様達が何者かは大方、予想がついている。俺たち鬼族は人間どもから略奪しすぎた。俺たちを討伐しにきたんだろう?」

「ああ。その通りだ。あんたらのせいで交易路が妨害されている。それだと困るんだ。」

「……だから俺たちを討伐する……か。なるほど。しかし、俺たちも生きていかなければならん。あいにく俺たちは奪うことしかできないのでな。」

「……そうか。」

鬼族の頭領と見られる鬼が会話してきた。意外だった。ルドウィンたちと会話もせずにただ襲いかかってくると思ったが。

そういうことなら、平和的に解決できる道もあるかもしれない。そう思い、会話を続けてみた。

「なら、交易路の妨害をやめて、協力関係を結ぶことは可能か?」

「確かに魅力的な提案だ。だが……」

そう言ってちらりと鬼族達の部下を見た。

「そうやって和平案を受け、敵に屈したとみなされれば、部下の幹部のうち血の気が多い連中が反乱を起こしかねない。わかるか?我々は今まで人間から略奪してきた。そして、弱肉強食の世界に生きてきた。弱いものが強いものに奪われる。それが我々の秩序だ。……つまり」

「ああ。わかった。」

そう。ルドウィンたちが戦うこと以外に選択肢がないということだ。

そうなら、もう神龍の時のように、二度と油断しない。

全力を出す。

「リリアリー、鬼族を倒し、逃げ道を確保しておいてくれ。俺は鬼族頭領を相手にする!」

「承知した!」

リリアリーが素早く背中の剣を取り、ルドウィンの後方の敵を倒した。

その様子を少し見守った後、ルドウィンは鬼族頭領に向かって手をかざし、能力を発動した。

手から大きな炎が出る。

まるで火炎放射器のように、鬼族頭領に向かって炎が放射された。

「貴様、能力者だな?」

鬼族頭領は素早く防御体制に入った。腕で体を防御し、反撃の機会をうかがっていた。

しかし、ルドウィンは素早く防御に集中する頭領の後ろに回り込み、炎の剣で切りつけた。

「なっ!」

頭領は素早く体を逸らし、致命傷は避けたが、避けるので精一杯だった。

「貴様、ただの能力者じゃないな?能力の具現化の力を持つ。そんな能力者は、噂に聞く天界の王族くらいしか俺は知らない!」

頭領は驚きと戸惑いの顔を見せた。

火の能力者が長い鍛錬の末、才能を開花すると、火を圧縮して物体を作ることができる。

その物体は能力者の自由自在な形に作ることができる。

しかも、火を圧縮してできているため、普通の物体よりも遥かに高温で、物体に物が触れると燃えるほど高温だ。

ルドウィンはその能力の具現化の力で、炎の剣を作った。

異世界転生して初めて具現化の能力を発揮できたが、それは、ルドウィンが多才な才能の持ち主で、非常に長い鍛錬の結果、体が能力を具現化する方法を覚えていたからできたことだろう。

だが、これで終わりではない。

ルドウィンにとって、そんなものは序の口だ。

唖然とする頭領の周りを囲うように、ルドウィンは具現化の能力を発動し、ありとあらゆる炎でできた武器を出現させた。

「なっ!直接手に触れていない空間にさえ、能力の具現化した物体を出し、さらに浮遊させることができるのか!?」

さらに口をぱくぱくさせる頭領が見えたが、油断しない。

念入りにたくさんの武器を出す。

その数はもはや、数えきれないほどだった。軽く、1万は超えているだろう。

天まで続く、その武器を、頭領だけでなく、周りの鬼族達も唖然と見ていた。

そして……。

ルドウィンは、その数えきれない武器を頭領ただ1人にめがけて発射した。

武器が次々に発射し、土煙と炎が渦になり、閃光を纏い、激しく光り輝いた。

その光は凄まじく、その時は夜中だったが、あたり一面をまるで昼間になったかのように明るく照らした。

どのくらい経ったか、長く、長く感じた時間が、終わった。

周りにいた鬼族は、もはや戦闘の意思はなく、ただ、唖然とその様子を見ていた。

もうもうとした土煙がしばらく経つと晴れてきた。

すると、人影があった。

頭領が、立っていた。

凄まじい光景を見ていたリリアリーがルドウィンに駆け寄り、状況を見て、加勢するかと尋ねた。

しかし、不要だと言った。

なぜなら、ルドウィンにはすぐわかったのだ。

頭領は立ちながらあまりの光景と空気圧から気絶していることを。

そのことに気づいたルドウィンは、すぐ炎の壁を頭領の周りに作り、自分の攻撃を自分で防いだ。

この頭領は話の分かりそうな頭領だった。

だから、このようにしたのだった。

しばらく、静寂が訪れた。

今まで昼間のようにしていたここら一面は、それが嘘のように真っ暗闇に包まれている。

そして頭領がパタリと倒れた。

その様子を見ていた鬼族が頭領の方へ駆け寄り、驚いた声でこう言った。

「ボスは生きている!気絶しているだけだ!無事だ!」

こう聞いた鬼族達は、歓喜の声を上げた。

ルドウィンたちの周りを鬼族たちが囲った。

「あなたこそ、俺たちのボスに相応しい!」

鬼族の1人が賞賛の声を上げた。

すると、次々に、鬼族達が、賞賛の声を上げ始めた。

「俺たちは見ていた!あなたがボスに攻撃する直前、ボスに能力のバリアを張り、自分の攻撃を防いでいたことを!」

なんという動体視力だ。ルドウィンは火の能力によって敵の体温を感じ取ることができる。それが微妙に低くなったことを察知して、鬼族頭領が気絶したと判断したのだ。自分の目では、攻撃の激しい閃光と煙しか見えなかった。

「そうだ、そうだ!俺たちは1人も犠牲になっていない!元ボスさえも!なのに、その強大な強さをお示しなさった!!」

「こんなこと、今までになかった!あなたこそ、神の使い!我々一族を導く存在!」

「大いなるボス!あなたに我々一族は一生ついていきます!!」

鬼族はルドウィンをボスと慕うようだ。

これで命令すれば貿易路は確保できそうだ。しかし……。

今まで避難していたが、様子を見ていて、ルドウィン達に敵意はなさそうと判断した鬼族の女子供が奥から出てきた。ルドウィンは、その女子供達を、ちらりと見た。

こちらの都合で交易路を襲うのをやめさせるのは簡単だが、そうなると鬼族の今までの収入源を断つことになる。

すると、この罪もない女子供達が生活することができなくなるだろう。どうしたものか。

そう考えていたが、今はイアの薬が優先だったので、このことは後回しにすることにした。

ルドウィンは鬼族に交易路を襲わないよう命令し、その代わり鬼族の生活を保証するということを伝え、喜んだ鬼族から提供された船に乗って、イアの居る街に戻った。

今は一刻も早くイアの様子が気になる。

そう思いながら、走ってギルドに向かった。

ギルドの受付から、イアと仲間が向かった場所を聞き、イアと仲間がいるという宿屋に向かった。

宿屋に着き、カウンターでイアと仲間の特徴を言い、泊まっている部屋を聞き出し、すぐに部屋に行った。

「イア、無事でいてくれ!」

ルドウィンはそう願いながら、部屋のドアを開けた。

すると、いた。

イアだ。

イアが苦しそうにベットで寝ている。

そばにティルシーがいた。

「ティルシー、どうだ?イアの容体は?」

「医者がさっき診て、まだ大丈夫だろうって言ってたにゃ。」

よかった。無事なようだ。

すると、部屋にルーナがいないことに気づいた。

「ルーナは?」

「買い物に行ったにゃ。あと、薬もいつ買えるようになっても良いように、いつでも買える準備をしているって。」

「……そうか。」

ルドウィンはほっとして、イアの側に行った。

熱くなっている頬を撫でる。

「ごめんな。後もう少しの辛抱だからな。」

そう言って、ルドウィンは少しでも良くなるように、熱を下げるために頭に乗せてあるタオルをとって、水に浸し、絞って、タオルを頭に再び乗せた。

ルドウィンは、ベットの横の壁にもたれて、イアを見つめていると、疲れたからか、睡魔が来た。

ルドウィンは、気づくとそのまま寝ていた。

あれから、どのくらい経ったかわからないが、ドタドタとした足音が聞こえてきて、その音で起きた。

バタンとドアが勢いよく開き、ルーナが嬉しそうにイアに駆け寄ってきた。

「買ってきたよ!あった!お薬!イアちゃん、飲んでね!」

そう言って薬をイアの口に運び飲ませ、水を飲ませた。

ルドウィンは、その様子をじっと見ていた。

すると、薬を飲むために起きていたイアが横になった。

その様子を見ていたルドウィンは、まだ疲れていたのか、それとも安心してなのかわからないが、再び睡魔に襲われ、眠った。

2日後。

「ルーナ姉ちゃん、ティルシー姉ちゃん、リリアリー姉ちゃん、ありがとう。」

「よかった!」

「よかったにゃ!じゃあ、安心したところで、飯にするにゃよ!いっぱい食べるにゃ!」

「うむ。治ってよかったな。」

ルドウィンがすやすや寝ていると、女性達の歓喜の声がした。

ルドウィンは驚いて起きて、イアを見た。

そこには、元気そうな姿のイアがいた。

眩しいくらいの笑顔で、にこやかに笑っている。

そして、女性達も、イアを囲んで笑っている。

和やかな光景だった。

「ああ!イア!よかった!よかった!」

ルドウィンはイアの方へ駆け寄った。

すると、イアが満面の笑みでルドウィンを見た。

「ありがとう。ルドウィン兄さん。イアは寝込んでいたけど、ちゃんとルドウィン兄さんが看病してくれたこと知っているよ。イアのために鬼退治もしてくれたんだよね。ありがとう。」

「ああ。イア!」

ルドウィンはイアの嬉しい言葉に、思わず、イアを抱きしめた。

体温は前に比べて通常の温度まで下がっているようだ。

よかった。

「ルドウィン、飯にするにゃ!私はもうお腹ぺこぺこにゃ!さっきイアを医者に見せて、完治したとお墨付きをもらったにゃ!だから、イアは大丈夫にゃ!完治祝いにゃ!」

「そうだな!みんなも頑張ったし、ここは盛大に、お祝いしよう!」

「そうこにゃくちゃ、ルドウィン!」

「そうね!」

「ああ!」

こうして、ルドウィンたちはこの街の飯屋を訪ね、イアの完治祝いの宴をした。

イアが食べられるものをたくさん頼んだ。

イアは寝込んでから、3日くらいおかゆしか食べていなかったので、お腹が空いていたようだった。

美味しそうに食べるイアを見て、ルドウィンたちは和んだ。

しかし……。

安心すると今後のことで不安なことを思い出した。

そう。鬼族達だ。

鬼族達は人々から略奪することをしなくなった。

しかし、そうなると完全に収入源が断たれる。

鬼族達の女子供達を養うことはできなくなるだろう。

だからこの前、イアのために、略奪をやめてもらうため、勢いで鬼族たちの生活を保証することを明言してしまった。

このことをみんなに相談すると、ティルシーが思いがけないことを言った。

「そんなの、国でも作って、養えば良いんじゃにゃいかにゃ?」

「何?」

ティルシーは本気で言ったわけではなかったかもしれないが、ルドウィンはその時、閃いた。名案かもしれない。

確かに、鬼族は男どももたくさんいて、労働力になりそうだ。ルドウィンを慕っている。命令すれば、国は無理でも、街から農作物の種を購入し、農業を行えるかもしれない。

しかし……。

「農業ができるかわからないから、無理だ。あの島の土が枯れているかもしれない。それじゃあ、農業はできない。」

「……あの。大丈夫だと思います。」

イアがルドウィンたちの会話に入った。

「もし、その島にあの黒い化け物がいないのなら、大丈夫です。」

「何?」

イアが言った言葉に、ハッとした。

確かに、最初の村は化け物が村の中までいた。

そうすると、村の土は枯れ、農作物が育たなくなっていた。

しかし、しっかりした防壁で守られた2番目と3番目の街の中は、化け物がいなくて、繁栄していた。

繁栄しているということは、当然食料がたくさん必要で、農作物がたくさん育つのだろう。

「……なるほど。」

ルドウィンはイアの言った言葉に納得し、同時に疑問が浮かんだ。

この話が本当なら、農作物が育たないのは、太陽が天界の大地によって塞がるのが原因ではなく、地上に蔓延る、化け物が原因だ。

それを隠し、地上の人間が、天界を恨む口実を作っているように思える。

しかし、なぜそこまでして天界を恨むように仕向ける必要があるのか。

また、そもそもなぜ化け物がいると農作物が育たなくなるのか。

そもそも、化け物とはなんなのだろうか?

「イア。なんで化け物がいると農作物が育たなくなるのか、わかるか?」

「……。」

イアが再び黙ってしまった。言い難いことなのだろうか。

「……わかった。ありがとう。教えてくれて。」

「うん!」

イアはそう言って、嬉しそうに中断していた食事の続きをした。

疑問が残る点もあるが、とりあえず、次にやることが決まった。

「よし、みんな聞いてくれ。俺たちはこれから、鬼族に農業をやってもらおうと思う。そのためにまず、農作物の種と、農業道具が必要だ。ルーナとリリアリーが農作物の種と農業道具を調達してくれ。俺とティルシーとイアは島へ鬼族に会いに行く。良いな?」

「わかった。」

「わかったにゃ。」

ルドウィンたちはこれから鬼族に農業をさせ、鬼族が自給自足ができるようにしようと思う。

やることはいっぱいあるぞ!

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