【長編小説】BADEND小説の世界に、小説の登場人物として転生した結果。〜全てを知る俺がこのBADEND小説をHAPPYENDへ〜11話

「あ、あと、ルーナ、リリアリー。できれば、植物の種は大麦と小麦が良い。もしあればありったけ買ってくれ。」

「大麦と小麦……ですね。わかりました。」

農業をするのに、大麦と小麦を育てるのは、とても良い選択だ。

なぜならば小麦はパンの原料になり、大麦はビールや、馬、牛、羊、豚などの餌になる。

さらに、1番のメリットが、乾燥させると長期保存できるという点だ。

だから、ルドウィンたちの世界では、広く栽培されて長く主食として食べられてきた。

おそらく、大麦と小麦が上手く育てば、鬼族が食糧難になることはないだろう。

「さて、行動開始だ。ティルシー、イア、ついてきてくれ。」

「わかったにゃ!」

「はい!」

ルドウィンたちは食事を終え、残った飯を袋に入れ、飯屋から出た。

そして、市場から、食べ物を調達し、鬼族の待つ島へと向かった。

鬼族からもらった船を隠していたので、その船を使った。

イア、ティルシーは船の中で外の景色を見ていた。

あの時は夜で周りがあまり見えなかったが、美しい自然がそこにはあった。

森林に囲まれた川があり、その川の中央に鬼たちが待つ島が浮かんでいる。

大きな川だ。他にも島はあり、鬼族がいる島が一番大きい。

鬼族のいる島がだんだん近づいてきた。

島にも木が生い茂っていて、もしかしたら、少量だったら、島の中でも食料が調達できるかもしれない。

そう思いながら、ルドウィンたちは島へと船を漕ぎ、向かった。

舟を砂浜から上げ、草木に隠す。

そして、島へ上陸すると、すぐ鬼族が見えた。

「ルドウィン殿。待っておりました。」

「出迎えてくれたのか?ありがとう。この飯をみんなで分けてくれ。今後のことを話そう。」

ルドウィンは飯屋の残りのご飯と、市場で調達した食料が入った袋を鬼族にわたし、鬼族の住処に行った。

鬼族の住処へ着くと、鬼族のみんなは各々、各自のやるべきことを行なっていた。子どもたちは遊び、女たちは料理をしている。男たちは見当たらないが、おそらく狩りをしに出かけているのだろう。

そんな鬼族たちの様子を見ていると、一番大きな鬼族、鬼族頭領がルドウィンに気付き、頭を下げてきた。

「ルドウィン殿。ありがとう。私の命を救ってくれて。また、部下に聞いたが、俺たちは、あなたに敵対したにも関わらず、みんなを養ってくれると言ってくれたそうだな。なんとお礼を言ったら良いか。」

「気にしないでくれ。それよりも今後のことを話そう。」

ルドウィンは鬼族頭領に頼み、男たちを招集してもらい、今後のことについて話した。

「みんな聞いてくれ。これから、君たちには『農業』をやってもらう。『農業』は大変な作業だが、うまくいけば、鬼族たちが暮らしていくための十分な食料を得ることができる。」

「農業……。」

鬼族たちはみんな真剣にルドウィンの話を聞いてくれている。

「『農業』には水と肥料と種が必要不可欠だ。肥料と種は俺たちが用意する。ただ、水は君たちが用意しなければならない。」

「わかった。じゃあ、川から水をくんで、その農業に使えば良いんだな?」

「いや、それだと効率が悪い。灌漑をしてもらう。」

「灌漑?」

鬼たちはルドウィンが言った言葉を聞き返した。

「ああ。灌漑というのは、穴を掘り、石を敷き詰めて川の水を畑に引き込むことだ。大変な重労働になる。だから、その間の食糧の調達は、俺たちも協力する。いっぱい食べて、いっぱい働いてくれ。」

「なんと!俺たちのためにそこまでしてくれるのか!」

鬼族たちはルドウィンのことを感謝の目で見ている。

この前までルドウィンたちと敵対していたとは思えない。

「じゃあ、早速作業に取り掛かってくれ。班に別れて行動しよう。石を集める班と、木を伐採する班、そして食料を集める班、穴を掘る班に別れてくれ。」

鬼族は、素直にルドウィンの指示を聞いてくれた。そして、キビキビ働き始めた。

それからの鬼族の働きは素晴らしいものだった。

元々鬼族は身体能力が高く、力も強く、持久力も高い。

だから、ルドウィンが指示をすると、あっという間に作業を遂行してくれる。

なので、作業はルドウィンの想定より早く進み、非常に順調に行われた。

途中、ルーナとリリアリーが買い物から戻ってきた。

これで、木製のくわ、そして大麦、小麦の種を入手できた。

あとは灌漑施設の完成を目指せば良い。

ルドウィンたちは、数週間、鬼族と共に島で作業を行った。

リリアリーは化け物狩りに出かけ、ルーナは買い出しを行い、食料を調達した。

ティルシーは最初、腹が減った、食べ物をよこせとうるさかったが、みんな懸命に各々自分の作業を行っているので、相手にしてもらえず、ついにティルシーは女性の鬼族から弓矢による狩りを教えてもらい、ーー男性の鬼族の狩りは鬼族の強靭な肉体を前提にしており、ハイレベルすぎて、参考にならなかったため。ーー獲物を食べたい一心で、必死に練習してメキメキ上達し、自給自足ができるようになった。

そして、ついに、用水路と排水路、水門が完成した。

「ルドウィン殿!ついに完成しました!」

「素晴らしい!よくやった!あとは畑を耕して畝(うね)を作り、畝の間に水が流れるようにすることで、灌漑が完成する!そしたら、いよいよ、種まきだ!あと一息!頑張ろう!」

その後、数人の鬼族があっという間に畑を耕し、土を盛り上げ、畝(うね)を作り、水が流れるようにした。

そして、灌漑システムが完成した。

うまく動作するか、テストする。

「テストを行うぞ。水門を開け!」

水門が開く。そうすると、川の水がみるみるうちに用水路に流れてくる。

そして、用水路から、畑へ流れ、畝(うね)の間にうまく流れていった。

「よし!うまくいった!水門を閉じろ!」

畑全体に水が行き渡ることを確認して、水門が閉じさせた。すると、しばらくすると、水がだんだん水位が低くなる。そして、畑の水がなくなった。うまく排水されている証拠だ。

「よし、完成だ!みんなよくやってくれた!あとは種を蒔き、収穫を待てば良い!」

わあああ!と鬼族たちが喜びの声をあげた。

想定より早く済んだ。それは、鬼族たちが勤勉に働いてくれ、そして鬼族の基礎体力や運動能力が高いからだった。

「みんな!今日はパーティーだ!よくやったな!好きなだけ食ってくれ!」

やった!鬼族たちが歓喜の声をあげた。

ルドウィンたちは鬼族たちに食べ物を振る舞うために、買い出しをした。

正直、こんな大人数の食べ物、ルドウィンたちだけで調達できるのだろうかと考えていたが、杞憂に済んだ。

なぜなら、鬼族たちも狩りや採集をして、ある程度は自給自足できるし、リリアリーの化け物狩りのスピードや効率がとても上がっており、食べ物の調達に困らなかった。

また、特に重要なのが、ティルシーの食費が浮いていることだ。

ティルシーが自給自足するようになって、すごく食費が浮いている。

これで、今までどれだけティルシーが食べていたかがわかるな。

そんなことを考えながら、パーティーのために買い物をたくさんして、鬼族たちの待つ島へと食料を運んだ。

リリアリー、ルーナ、イアが鬼族たちの女性たちと共に、食料の調理をする。

その様子を指を咥えながらティルシーが見ている。

ルーナがティルシーにつまみ食いをしないよう注意をすると、ティルシーがしょぼくれていた。

「いいんじゃないか?今日くらいは。今までティルシーも頑張ったし。」

ルドウィンがそういうと、ティルシーが目をキラキラさせた。

「ただし、ちょっとだけだよ?あんまり食べたら、食事抜きだからな。」

「はーいにゃ!」

ティルシーは喜んでつまみ食いをした。

「ルドウィン殿。」

鬼族頭領がルドウィンを呼んできた。

ルドウィンは鬼族頭領とみんなとは離れた場所で、幸せそうなみんなを見ながら話した。

「どうした?」

「ああ。どうしてもお礼が言いたくてな。ありがとう。おかげで我が一族はなんとか食べていけそうだ。まさか、俺たちが人間から奪わずにこんな人数を生活させることができるようになるとは、思いもよらなかった。」

「ああ。だが、それは君たちが悪いわけではない。」

「そうなのか?」

「ああ。……知識だ。知識があれば、生活は豊かになる。だが、この国では知識は一部の人間だけが独占している。君たちみたいな、困っている人にも手を差し伸べない。こんな国は間違っている。俺のいた国では、知識は共有され、みんな学ぼうとすれば学べる国だった。もちろんそれでも、貧富の差が生まれる課題や環境問題や、その他課題はあったが、それでもこの国よりかはだいぶましだ。」

「そんな国があるのか?そんな理想的な国、ここらでは聞いたことがないが……。」

「ああ。俺は別の世界、異世界から来た。」

「何?それは本当か?」

「ああ。俺はそこでたくさん本を読み、勉強した。だからある程度、知識を持っている。だから、この灌漑施設も作ることができた。」

「……そういうことか……。」

鬼族頭領は納得した顔でこう言った。

「なるほど。やはり君にこの一族のボスを任せたい。」

「……。」

「俺ではこの一族を十分に食わせてやることはできなかった。人間から奪うことしかできず、一族のうち数人、人間に倒されたこともある。このような状況だと、いつ鬼族を本格的に討伐しに、王都から一流冒険者や軍を派兵するかわからない状況だった。そんな中、君たちが現れ、農業を教えてくれた。こんなに嬉しそうに働く鬼族たちを見たのは初めてだ。やはり、君しかいない。君がこの一族の頭領になってくれ。」

ルドウィンは鬼族頭領にそう言われ、考えた。

鬼族は優秀な労働力だ。

さらに優秀な兵にもなる。

これから、場合によっては、地上の勇者学校の連中と軍事衝突するかもしれない。

しかし、天界からの支援は望めない。これは正式な任務ではないからだ。

そういう時、こんなにたくさんの鬼族がいてくれると心強い。

……断る理由はなかった。

「ああ。君たちのボスになろう。これからよろしく頼む。」

「こちらこそ、よろしく頼む。」

こうして、鬼族頭領とルドウィンが硬い握手をした。

「ご飯ができましたよ!ルドウィンさん!」

「ああ。ありがとう。今行く。」

ルドウィンはみんなのところへ行った。

木でできたテーブルに、たくさんの食べ物が並んでいる。チキンの丸焼き、マッシュポテト、サラダに、ベーコン、豚肉とキャベツの炒め物、卵焼きに目玉焼き、魚のフライに、クリームスープ、ビーフシチュー、かぼちゃの肉詰め、りんごのバター焼きに、アップルパイなどなど。

美味しそうな食べ物でいっぱいだった。

そんな食べ物をみんなが囲んでルドウィンを待っている。

ルドウィンはビールの入った木製のコップを取った。

「みんな。ありがとう。おかげで灌漑施設ができた。これで農業が楽にできるようになり、食料に困らなくなるだろう!この記念すべき日を祝して、乾杯!」

「乾杯!」

ガコン。

みんな、ビールが入った木製のコップを上げて、乾杯した。

もちろん、イアはオレンジジュースだ。

鬼族の男どもがビールをぐいっと飲む。

さすが鬼族だ。酒豪なのだろうか?

それを見て、鬼族の子供の男たちがオレンジジュースでぐいっと飲み真似をする。

女性たちは会話をしながら、ご飯や飲み物を楽しんでいた。

そんな鬼族の女性たちに混じり、ルーナが楽しそうに会話している。

リリアリーは鬼族の男たちとビールを飲んでいた。狩猟の話、剣の話、筋トレの話などをしている。鬼族の男たちは興味深そうにうんうんと聞いている。

イアは鬼族の少女たちに囲まれて、話しかけられている。

ティルシーは……、食べることに夢中だった。

それは、幸せな光景だった。

こんな光景がいつまでも続けば良いと思う。

ルドウィンは、その光景を鬼族頭領と共に見ていた。

「ルドウィン殿の……世界を俺は見てみたいな。」

鬼族頭領が話しかけてきた。

「きっとこの世界よりも素晴らしいのだろうな。みんなが豊かになれる世界。そんな世界を俺が生きているうちに見てみたいものだ。」

「……。」

ルドウィンは、幸せな光景を目に焼き付け、ただ、頭領のその言葉に耳を傾けていた。

そんな楽しい時間を過ごしていたルドウィンたちに、一報を知らせる鬼族が大慌てで来た。

「大変です!頭領!ルドウィン殿!」

「どうした!そんなに慌てて!」

ルドウィンや仲間たち、鬼族たちが何事かとその鬼族を見た。

「ここの領主です!ここの領主がルドウィン殿に会いたいと申しております!」

「何?」

しまった。気づかれたか。

ここの領主と言えば、ルドウィンたちに鬼族討伐の依頼をしてきた、依頼主のことだろう。

どんなことを話してくるのだろうか。

ルドウィンはこの先が一気に不安になった。

「わかった。俺が代表として領主に会いに行こう。」

こうして、ルドウィンたちはここの領主に会いに、舟に乗り、領主の屋敷へと向かった。

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