村。
ここは村だ。
しかし……。
「土が枯れている。」
土が荒れ果て、寂れた村が、ルドウィンの目の前に広がっていた。
おかしい。
太陽はちゃんと照っている。
しかし、土が死んでいる。
ルドウィンは違和感がした。
「ルドウィンさん、どうします?」
ルーナが聞いてきた。
そうだな。どうするか。
「とりあえず正体がバレないよう、身元を隠して、ここの金銭を稼がないとな!だからここで仕事を探す。」
「ええ~働くのは嫌にゃ。働かずに贅沢したいにゃ。」
この猫はまた無理難題を言う。
だが、おそらくルドウィンの転生前の出身国なら、そう思う人間はごまんといるだろう。
「いいぞ。なら働かない猫はくうべからず。」
「にゃ~わかったにゃ!はたらくにゃ!」
だが、この猫がこう言うのも仕方がない。
ルドウィン達はいわば国の偉い人だった。
部下に全てのことをやらせた、いわば命令していた立場の人間だ。
だから、働くことに抵抗があるのはわかる。
しかし、ここは地上。王族であることも隠し、部下もいない。働かなければ、食べることはできないのだ。
だから、働くために、まず情報収集だ。
ルドウィンは、そこらにいる村人に、仕事を探していることを話すと、ギルドの存在を紹介してくれた。
ギルドはルドウィンの元いた世界でいう、職業訓練兼、ハローワークのようなものだ。
ギルドは都市ではたくさんの種類があるらしいが、あいにくこの村では、冒険者ギルドのみだった。
だからルドウィンたちは、村唯一の冒険者ギルドを訪ねた。
「たのもーー!」
リリアリーが元気よく冒険者ギルドのギルドハウスの扉を開けるが、中に人は少なかった。
それでもお構いなしのリリアリーが冒険者ギルドの受付にズンズンと向かった。
「すみません。ギルドの加入をしたいのですが。」
「でしたら、まず、口頭で情報を答えていただき、情報を確認させていただきます。その後、熟練冒険者の元で、数年間冒険者の訓練をしてもらいます。その後、試験を受け、合格すると、晴れて冒険者になれます。」
「……なるほど。すぐ仕事できないのだな。」
ルドウィンのいた世界に昔あったギルドと同じような仕組みらしい。
だとすると……。
「職業訓練中の賃金は出るのか?」
「申し訳ございませんが、職業訓練中の賃金は出ません。ただし、熟練冒険者が生活費は出してくれますし、食事の面倒も見ます。寝床も提供しますし、不便はありません。」
「……なるほど……。」
困ったことになった。
ここで数年間タダ働きをして過ごしてしまうと、時間がかかりすぎる。
ルドウィンたちの目的は地上で生活することではなく、地上と天界の戦争を阻止すること。
それは戦争が起きる前に阻止しないと間に合わない。
しかし、今後地上でお金を稼がないといけないので、仕事ができる方が良い。
なので、聞いてみた。
「職業訓練期間を短縮することはできるか?」
「一応、可能ですが……それには熟練冒険者の推薦がなければなりません。ですが、それはよっぽど才能がないとできません。基本的には数年間訓練をお願いします。」
「わかった。」
ルドウィンたちは口頭でいくつかの質問に答えた。事前に天界の国王に用意してもらっていた偽の地上での身分の情報だ。
問題なく通り、地上の通貨をいくらか国王からもらっていたので、訓練料を払い、熟練冒険者の元で職業訓練することになった。もちろん、数年間もタダ働きできないので、推薦狙いだ。
「俺はアーサー・オブ・エルムウッド。アーサーと読んでくれ。これから君たちを教える冒険者だ。よろしく頼む。」
「よろしくお願いします。」
「にゃ。」
ルドウィンたちの面倒を見てくれる熟練冒険者、アーサーがルドウィンたちに挨拶してくれた。
アーサーは熟練冒険者という割に、あまり上等とは思えない革のアーマーを着ていて、ボロボロの見た目をしている。
ルドウィンたちは、早速、アーサーがギルドで依頼を受けた仕事を行なった。
「仕事の内容は、化け物退治だ。」
「化け物……。」
地上にちらほらいる化け物のことだ。
黒い、影のような化け物。
それを退治するらしい。
「この化け物は油断すると危険だ。動きが早く、武器を持っている個体もいる。その個体は強い。しかも、数が多く、倒しても倒してもキリがない。特に危険なのが、化け物が集団でに襲ってくる場合だ。そうなると勝ち目はない。」
「……。」
確かに、あんなのが集団で襲ってきたら、大変そうだ。
「だから、集団で行動する前に、1体1体ずつ倒す!」
アーサーが剣を取り出し、化け物の1体を攻撃した。
化け物が攻撃をガードする。
アーサーと化け物が力比べをしている。
力は拮抗している。
アーサーが足で化け物を蹴った。
化け物が怯んでいる。
その隙をついて化け物の頭を攻撃した。
化け物が倒れた。
しかし、致命傷にはなっていないだろう。またすぐに起き上がってきた。
「化け物は1体でも結構強い。ルドウィン、この化け物相手に攻撃してみろ。もしやばくなったら、俺が助けるから。」
「わかった。」
ルドウィンは剣を鞘から抜いた。
異世界転生してから、ずっと感じていた。
剣の振り方、剣の扱い方。
これが手に取るようにわかるのだ。
おそらく、ルドウィンがたくさん剣の鍛錬をしていたから、体が覚えているのだろう。
ルドウィンは剣を握って、化け物に向かって一直線にダッシュした。
そして、一閃。
化け物を一刀両断した。
化け物は倒れた。
「なんて剣さばきだ!本当に未経験者か?」
アーサーはルドウィンを称賛した。
「自己流で習得しました。」
「素晴らしい!あなたにはとても才能がある!言うことなしだ!俺が教えられることは何もない!すぐ仕事の依頼を受けてくれ!それがこの村のためだ!」
うまく行った。
ルドウィンは安心して、ルーナ、リリアリー、ティルシーにグッと親指をたて、喜びを表現した。
ルーナ、リリアリー、ティルシーも喜んでいる。
「俺は早速冒険者ギルドに推薦を出す。もちろん、試験も免除だ。君が一刻も早く仕事ができるように。だから、たくさんこの村で仕事をしてくれ!頼むよ!」
目をキラキラさせてアーサーは言った。
「正直、俺たち冒険者はこの村には全然人材が足りなかったんだ。良い人材はすぐ都市に行ってしまうからな。だから、君はできればたくさんここで化け退治をして欲しい!」
アーサーはルドウィンの手を掴み、ブンブン振り回しながら言った。
その後、アーサーとルドウィンたちは冒険者ギルドに行き、アーサーが推薦を出してくれ、ルドウィンは晴れて、冒険者となった。
「すごいですね!ここまで早く冒険者になられた方はいませんよ!」
ギルドの受付も驚いていた。
「ありがとう。じゃあ、早速仕事の依頼を受けても良いかな?」
「え、ええ。ですが、申し訳ございませんが、ただいまこの依頼しかございません。」
そうしてギルドの受付が差し出したのは、化け物の討伐依頼が書かれた木簡の束だった。
「え!?これだけ?」
しかし、ルドウィンが驚いたのは、その報酬額だった。
そう、モンスターの討伐は下手すれば命が失われる。なので危険な仕事だ。なので報酬はある程度あると思ったが、ここ地上ではモンスターの討伐依頼は二束三文だった。
少し考えると、その原因がわかった。
地上はモンスターが溢れる世界。
黒い……人の影のような存在のモンスター。小説内には「化け物」と表現されている。
原因不明のそのモンスターが蔓延るこの地上の世界は、化け物退治が重要になってくる。
だが、アーサーも言っていたが、化け物は後から後から湧いてくるため、キリがなく、小さな村では、お金を出す余裕もないのであろう。
ここまで報酬が少ないと、ギルドに人が少なくなるのも当然だ。
……しかし、ルドウィンは別のことで疑問が残っていた。
思った以上にこの化け物のせいで地上の状況が深刻だということもわかった。
では、この化け物のせいで天界の人間は天界へと逃げたのであろうか?
それは……確かに一つの要因かもしれない。
だが、それだけだとは思わない。納得できない。
それなら能力者が力を合わせて化け物を退治すれば良い話だ。
天界の人間はかなり強力な能力を持っている人間がたくさんいる。
その力を合わせれば化け物も退治できるだろう。
全滅はできなくても、少なくとも人が住むスペースは十分確保するのは余裕なはずだ。
しかし、天界の人々はあえて茨の道、天に住む道を選んだ。
国土も狭く、不安定なその道を。
「……。」
ルドウィンはしばらく考え込んだ。
「あの…。どうします?」
「ああ。そうだな。受けよう。」
考えても仕方のないことだ。いずれ旅をしていればわかることだろう。
そう思い、今の重大な問題である、食料確保のため、化け物退治を引き受けたのであった。
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