【長編小説】BADEND小説の世界に、小説の登場人物として転生した結果。〜全てを知る俺がこのBADEND小説をHAPPYENDへ〜6話

ルドウィンは寝ている美女3人を1人1人担ぎ、宿屋で泊まった。

「全く、世話がかかる女性達だ。」

みんなすやすや寝ている。

こうして近くでみると3人とも美しい。人形みたいだ。

小説で登場した人物が、目の前で寝ているのだ。

本好きのルドウィンにとって、貴重な体験だ。

ルドウィンは3人の移動を完了させ、へとへとになってやっと寝床についた。

流石に疲れた。まだ、この体験を夢のように感じる。

「本当に異世界転生したんだな……。」

ベットに横になって、木造の天井を見ながら、しみじみと感じた。

その夜、ルドウィンは冷めない興奮と疲労と、無理をした体の痛みを感じ、疲れが勝ったのかぐっすり寝た。

翌日。

ルドウィンは猫(ティルシー)の喚(わめ)き声で起こされた。

「起きるにゃ!ルドウィン!飯にゃ!飯にゃ!腹減ったにゃ!」

昨日あんなに食べたのに、腹減るのが早すぎないか?

そう寝ぼけながら思ったルドウィンは、渋々起きた。

「財布どこに隠したにゃ!財布よこすにゃ!」

猫(ティルシー)に財布のありかを白状させられ、ルドウィンたちは朝食をとった。

ティルシーは飯をたくさん食べるので、ルドウィンの悩みの種になった。

食費どうしようか。これじゃあ、たくさん稼がないといずれ金欠になるぞ。

そう考えながら、よく食べるティルシーを眺めていた時、ルーナとリリアリーがルドウィンに話しかけてきた。

「すみません、ルドウィンさん。昨日は苦労をかけてしまったようで。気づいたら寝ていました。」

「ああ。私も。すまない。そして、ありがとう。私たちを1人で運んでくれたのだな?たくさん食べたから、重くなかったか?」

「いいや。2人は軽かったさ。2人はね。」

ティルシーは正直、重かった。ものすごくたくさん食べたのであろう。細身の体の腹だけ膨れていた。

それに比べてルーナとリリアリー2人は軽いものだった。

「にゃ?なんか失礼なことを言ったかにゃ?」

「気のせいだ。気にするな。それより冷めてしまうぞ。」

「そうにゃね。その通りにゃ。」

朝食後、ルドウィンたちは次の旅の支度をした。

食料、武器、道具(コンパスと地図、野宿セット)を手に入れ、次の村へ向かった。

次の村を目指して歩く一行。

何人かの商人とすれ違った。

商人には冒険者と見られる体格の良いボディーガードが複数名付いていた。

なるほど、地上では商売をするのにも、化け物が蔓延っているため、ボディガードが必要なのか。

おそらく、そういう仕事もギルドで募集しているだろう。

だが、ある程度実績のある冒険者じゃないと依頼が来ないのだろうな。

多分、給料も良いだろう。

いずれそういった仕事をして、食費を稼がないとな……。

そう考えながら、歩いていると、ルドウィンたちに声をかける人間がいた。

「命が惜しければ金を出すんだ!」

……強盗だった。体格の良い十数名の悪党に囲まれた。おそらく、ルドウィンたちの身なりが良いから、格好の餌食だと思い、強盗をしたのだろう。

「はあ、面倒だな。みんな、能力は使うなよ。リリアリーは手加減しろよ。商人とすれ違う可能性もあるし、見られている可能性もある。」

「ああ。わかっている。」

ただ、この強盗はなんて不運なんだろうか。

ルドウィンたちは王族だ。王族は普通の国民より基礎戦闘能力や能力値が高い。

しかも、ソルジャー王国の王族、リリアリーがついている。

ソルジャー王国は格闘戦闘能力に長けている人々が集まっている国だ。

その中でもソルジャー国の王族は、特に基礎戦闘能力が高い。

つまり……。

「あまり力を入れないように……ふん!」

リリアリーがそう言って、手加減したパンチを悪党にお見舞いした。

しかし、そのパンチを喰らった悪党が数十メートル吹っ飛んだ。

「力を入れないようにパンチしたんだがな……」

「ひいい!化け物!」

……リリアリーには戦闘させない方が良さそうだ。加減が難しいらしい。

吹っ飛んだ仲間を見て、慌てて逃げる悪党達。

よかった。運良く周りに商人はいないようだった。

そんなこともあって、しばらく、次の村へ着くまでに悪党に絡まれることは一切なくなった。

ルドウィンたちは石レンガで作られている高い外壁で守られた集落についた。

前回の集落は、ここまで立派な外壁はなく、おそらく村の人たちで協力して作ったであろう木で作られた簡易的な木杭の外壁があったが、ところどころ壊れており、簡単に集落に入れた。

ルドウィンたちは外壁の門番に中に入れてもらえるよう話した。

「旅人だったら、ギルドの登録はされているか?」

「されています。」

「うむ。ギルドにて確かに実績があるようだ。問題ないな。税は免除だ。通って良いぞ。」

前回の村でギルドに登録し、ギルドの実績を作ったおかげで、集落に問題なく入ることができた。

今回の村は前回の村よりも発展しているようだった。商人も多く、人がたくさんいて、賑わっている。

金持ちそうな人もちらほら見える。

このようなところで良い依頼が受けれたらがっぽり儲かるだろうか。

そう思いながら、そこらへんでギルドの場所を聞き、ギルドに向かおうとしたところ、ティルシーが駄々をこね始めた。

「お腹すいたにゃ!飯にするにゃ!」

おいおい、さっきの村で食べたばかりだろう。少しは我慢してくれ。

さらに悪いことに、もうお金がそこをつきそうなのだ。

あんなにみんなで貯めた金だが、ティルシーの食費にほとんど消えている。

「ティルシー、少しは我慢してくれ。次の依頼でたくさん稼げたら、たらふく食わせてやるから。」

「約束にゃよ!」

ルドウィンは猫を宥めて金稼ぎをするためにギルドに向かった。

ギルドは前の村のギルドよりも賑わっているようだった。人で溢れ、さまざまな冒険者がいる。

ギルドの中の装飾も豪華で、ギルドも潤っているようだった。

「今ギルドで募集している仕事はこちらです。」

ギルドで募集している依頼の木簡を読んでいると、一つ、目を引く依頼があった。

額が桁違いの依頼だ。

どんな依頼かと見てみると、ドラゴン退治だった。

ルドウィンの知っている情報では、ドラゴン王国という国がある。

ドラゴンを退治してしまうと、ドラゴン王国に目をつけられないかと心配だった。

外交問題になりかねない。

なので、ドラゴン退治の依頼の木簡を飛ばそうとすると、そこに待ったをかけた腹ペコティルシーが物申してきた。

「なんで飛ばすにゃ?ドラゴン退治余裕にゃ!こんな天界の王族の精鋭が揃っているにゃ、ドラゴン1匹、何を恐れる必要があるにゃ?」
「だが、ドラゴン王国はどうなる?後々外交問題にならないか?」
「大丈夫にゃ。地上のドラゴンは野良ドラゴンと相場が決まっているにゃ。ドラゴン王国と関係ないにゃよ。」
「そうなのか?」

しかし、野良猫、野良犬、野良牛なら聞いたことがある。

野良ドラゴン……、なんという可愛げのない響きだ。おっかない。

「ドラゴン国に所属していれば、ドラゴン王国の領内にいるはずにゃ。つまり、天界にいるはずにゃ。でもここは地上だから、絶対、野良ドラゴンにゃ。」
「なるほど…」

野良ドラゴン退治か…。
確かにそれならドラゴン国を敵に回すことはない。

そしてこの莫大な報酬だ。

今は主にディルシーの飯代のため、お金が早急に必要だ。

「よし、やってみるか。」

ルドウィンらはこのドラゴン退治を引き受けることにした。

「この依頼を引き受けるのですね?」

念を押す受付嬢。

「では、こちらの羊皮紙にサインをしてください。」

羊皮紙の文字が読めなかったので、ルーナに教えてもらうと、要は自己責任で依頼を引き受け、命の補償はないという内容の文字が書かれた羊皮紙だった。

なんだか嫌な予感がしたが、背に腹は変えられぬ。お金が欲しいのだ。羊皮紙にサインをし、依頼主にあった。

依頼主はたくさんの宝石が散りばめられていた豪華な服とアクセサリーに身を包んだ、いかにも金持ちな商人だった。

「サインはしたな?では、この洞窟内にドラゴンが居座っている。ここは私の領地でな。もしドラゴンがいなくなれば豊富に鉱石が取れるんだ。だから困っていてね。では、よろしく頼むよ。」

そう言って、ルドウィンたちをドラゴンが居座る洞窟へ案内した。

洞窟内部に入ると、暗く狭い道を、松明の灯りを頼りに進んでいく。

ここなら誰もいないので能力が使えるし、ドラゴンにだって、絶対に負けることはないだろう。

そう思いながら、自信満々に狭い洞窟内部を進んでいると、広い場所にでた。

「広いところに出たな」
「やっと狭いところから解放されたにゃ!」
「しっ静かに!」

ルーナが、神妙な面持ちで言った。

「……何か……いる!!」

ルーナの声は震えていた。

ルドウィンが声の意味を頭で理解するより先に、目が、敵を捉え、本能的にその意味を理解した。

「!!!」

ルドウィンの目の前にいるのは……ドラゴンだ。

ただし、ただのドラゴンではない。

神聖さすら感じる神々しい光に包み込まれていて、圧倒的な強者のオーラに身を包んでいる、白く、美しい白龍がそこに降臨していた。

「神龍……!!」
「何!?」

神龍だと?初めて聞くモンスターだ!そんなもの、小説に出てきていない!

「避けて!!」

ルーナが悲痛な叫びと共に、唖然としているルドウィンを突き飛ばした。

「きゃあ!!」

ルーナがドラゴンの威嚇で発した圧に吹き飛ばされた。ルーナがルドウィンを突き飛ばさなければ、ルドウィンが吹き飛ばされていただろう。なんということだ。ただの威嚇の圧で人間が吹き飛んだ。

「!!!ルーナ!!」

ルーナがルドウィンの目の前から消えた。砂埃が辺りを覆い隠し、無事かどうかわからない。

「ルーナ……。」

ルドウィンはあまりの出来事にぺたんと座り込む。

その時、ルドウィンの懐が光っていることに気がついた。

「あ……あ!そうだ!本!本!」

そう、ルドウィンはこの世界の本を持っていた。

なんで今まで忘れていたのか。

おそらくそこにはこの世界のことが記されているだろう。

何かヒントが書かれているかもしれない。

「頼む!!!」

ルドウィンは本を開いた。

すると、本の内容が書き換えられて、今までのルドウィンたちの冒険の出来事が書かれている。

そして、最新のページを開いた。

「なんだこれは!!」

そこに書かれていたのは、神龍が現れたこと、そして、その後に起こる、全く望まない未来について、それがまるで事実のように書かれていた。

「どうしたらいいんだ!!」
「!!」

リリアリーとティルシーは神龍にも怯まず武器をとっている。

しかし、あまりの圧倒的な強者のオーラに、手が、足が、震えていた。

このままだとルドウィンたちは本に書かれた通り、最悪の未来になる。全く望まない未来に。

「うわあああああ!!!!」

「こんな未来なら!!!いらない!!!捨ててしまえ!!!!!!!」

ルドウィンは本の最悪の未来が描かれたページを力いっぱい破った。

どうにもならないが故の最後の抵抗だった。

ビリッ!!!!!!

プツン

そこでルドウィンの記憶は途切れた。

ゆっくりと意識が戻る。

声が聞こえる。ティルシーの声だ。

「ご馳走様にゃ!あ~美味しかった!」
「!」

俺は、どうしている?

俺は生きているのか!?

自分の生死がわからない。

「なんにゃ?どうした?ルドウィン、真っ青にゃよ?」

ルドウィンの目の前には心配そうにルドウィンを見つめるティルシーがいた。

「!? どうしたにゃ!?ほんとに様子がおかしいにゃ!にゃ、起きるにゃ、リリアリー、ルーナ!!」

ああ、リリアリー、ルーナ!よかった!無事で!

目の前に神龍に吹き飛ばされたはずのルーナがいた。

ルドウィンはルーナを見た途端、安堵感から、気づいたら体が動いていた。

「ルーナ!!」
「ど!?どうしたんですか?ルドウィンさん!」

ルドウィンは、ルーナが生きていることを確かめるように、ルーナを抱きしめた。

「え、えと、あの、こういうことはまだ、早いと言いますか?というか大丈夫ですか??」
「そうだ!本!本!」

ルドウィンは本を探した。

あった。きちんと懐に本があった。

そして、破られた最悪の未来を表すページが本に挟まれていた。

本から破られたページの前のページに、初めて4人で食事をする内容が書かれている。

その先のページは白紙になっている。

そして、今、ルーナとリリアリーとティルシーとルドウィン4人で食事をしている最中だ。

つまり、推察するに、ページを破った分、過去に巻き戻ったということになる。

「……つまり……」

この本はこの世界と連動している!

「……ふふ、はは、そういうことか。」
「?お、おい、ルドウィン、本当に大丈夫にゃ?」
「ああ、俺は大丈夫だ。問題ない。」

ルドウィンは巨大な力を手に入れたのだ。

この本、そして現代の知識、小説の知識。

この3つを利用して、この世界の謎を解き明かそう!

「いいぜ。やってやる。」

ルドウィンは椅子の上に立ち上がった。

「絶対、このBADENDの世界を、俺がHAPPYENDへと変えてやる!!」

そうしないと生き抜く術はないのだ。

もともと、この世界で異世界生活を謳歌するには、他に選択肢はない。

だから、せっかくやるのだから、思いっきりやってやろう。

このBADENDの世界を変える。変えてやるんだ。

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