【長編小説】BADEND小説の世界に、小説の登場人物として転生した結果。〜全てを知る俺がこのBADEND小説をHAPPYENDへ〜8話

ルドウィンたちはあの後、化け物狩りの依頼を受け、手加減のコツを習得したリリアリーのおかげで、たくさんお金を稼ぐことができた。

その稼いだお金を使い、ルドウィンたちはイアの歓迎会を飯屋で行っている。

イアが仲間に加わった。

貴重な初めての地上人の仲間だ。

なので、歓迎会のついでに、何か地上のことについて知っていることを話してもらい、地上の情報収集をすることにした。

「イア、ご飯中すまないが、質問に答えて欲しい。」
「わかった!」

たくさんの食べ物に囲まれ、嬉しそうなイアが元気よく返事をした。


「自分が生まれ育った故郷のことを話して欲しいんだ。」
「!」

イアの表情が変わった。今まで嬉しそうだった顔が豹変、警戒する顔つきになった。

「い…言いにくいなら、故郷のことでなくても、この世界について知っていることを話してくれ。」
「……。」

ますます警戒している。これは話してくれなさそうだ。

しかし、故郷について聞いたのは不味かっただろうか。

確かに、イアは奴隷だ。故郷で辛いことがあったのだろうか?

ルドウィンは軽率なことをしてしまったかもしれない。

そう考えていると、リリアリーがルドウィンに話しかけてきた。

「……あまり、イアをいじめないでください。ルドウィン殿。」
「え?いや、そういうつもりでは……」
「いいえ。イアはまだ怖いんです。そんなルドウィン殿の恐い顔で質問されたら、誰だって黙ってしまいます。」
「え……」

ショック。恐いか?俺の顔……。

「そうですよね、イア。大丈夫。お姉ちゃんたちが恐いにいちゃんから守りますからね。」
「……。」

これでは完全にルドウィンが悪者だ。イアの表情から警戒感が薄まった。

「イアちゃん可愛いですね。私も食べ物をあげます!!」
「あ、ルーナ!まだ私のものを食べてるんです!」

……女性陣がいてくれてよかった。

ルドウィンだけだとイアに懐かれなかったかもしれないな。

きゃっきゃしている女性陣をよそに、猫(ティルシー)はその女性陣に混じらなかった。

「お前は混じらなくて良いのか?ティルシー。」
「にゃ?私は愛(め)でられる方にゃ。愛(め)でる方ではないにゃ。」

その理屈はわからんが。

まあ、兎にも角にも、イアがいてくれたことにより、仲間の雰囲気が良くなった気がした。

さて、リリアリーの活躍により、この街の化け物狩りの依頼はほとんどなくなってしまった。

なので、もう次の街へ向かい、化け物狩りの依頼をし、お金稼ぎをしようか。

懐事情は良くなってきたが、何せティルシーがよく食べる。

貯金が多いことに越したことはないのだ。

ルドウィンたちはイアの歓迎会を終え、次の街へ向かった。

ここらの周辺の地図とコンパスも購入しているので、次の街に着くまで、道に迷うことはないだろう。

そう思いながら次の街を目指して仲間と徒歩で歩いていたところ、またも数人の悪党が話しかけてきた。

「金を出せ!さもなくば痛い目を見るぞ?」

懲りないな……まあ、ルドウィンたちの仲間は男1人、女3人、少女1人だ。しかも身なりも良いし、子供もいるので、子供を守りながら戦うとなると不利になる。そう考えて声をかけたんだろうが……。

「リリアリー、頼む。」

「合点承知!」

ルドウィンたちにはリリアリーがいる。しかも前回襲われたリリアリーとは違い、手加減を覚えたリリアリーだ。人目を気にせず、存分に戦うことができる。

リリアリーが良い手加減で、悪党を薙ぎ倒していった。

「くそ!こうなったら!」

悪党の一人が、一番弱そうで少女のイアを人質に取った。悪党がニヤリと笑った。

「おい!この少女がどうなっても良いのか?金を出せば少女を解放してやろう!」

「‼️」

リリアリーの動きが止まった。

……なんか嫌な予感がする。リリアリーが怒っているようだ。

シュン

何かが風を切る音がした。

ルドウィンには全く何も見えなかったが、気づくと、ドカンという音と共に、悪党が吹っ飛んでいた。

「ひいいい!!」

悪党が怯える。

それもそのはず、リリアリーは、自分が可愛がっている少女を人質にして、金銭を脅迫してきた悪党どもに対し、かなり怒っていたのだ。

リリアリーの顔は、怒りで歪み、とんでもない形相だった。

「ごめんなさいいい!許してください!!」

悪党がそう言いながら、我先にと逃げていった。

「大丈夫?怪我はない?イア?」

まるで仏のようなイアを気遣う顔になり、イアを心配するリリアリー。

ルドウィンは、その様子を見て、リリアリーを怒らせないことを固く決心したのだった。

その後は何も起きることなく、無事、次の街へ着いた。

今回の街は前回の街ほど豊かではなさそうだが、それでも発展している街だった。

人も多く、賑わっていた。

ルドウィンたちはギルドに向かい、ギルドで募集している依頼リストの木簡を見ていた。

今回も化け物狩りをたくさん行い、お金を稼ごう。

そう思っていた時、ドサリと後方から音がした。

「イアちゃん!大丈夫!?」

リリアリーの悲鳴。

何が起きたか、振り返ってみると、イアが倒れていた。

苦しそうな顔をしている。

頭を触ると、熱がありそうだ。

「すみません、ギルドの方、ここら辺で医者はいますか?」

「え、ええ。この街にお医者様はいらっしゃいます。すぐ手配しますか?」

「頼む。」

ルドウィンはイアを担ぎ、安静にできそうな場所に横にして、持ち物からタオルを取り出し、バケツをギルドから借り、バケツに水を溜め、タオルを浸し、絞って、濡れたタオルをイアの頭にのせた。

少し待っていると、医者が来て、診察を行った。

「これは、流行り病ですね。」

「流行り病?」

「ええ。ここら辺の地域で流行っている病です。適切な薬を飲んで安静にしたら治りますが……」

すると、医者が困った顔をした。

「しかし、今、この薬は値段が高騰していて、入手困難なのです。」

「なぜだ?」

「流行り病の薬なので需要がたくさんあり、さらに最近ここら辺に住み着いた鬼族のせいで、交通網が麻痺し、供給が間に合っていないのです。」

「鬼族……。」

「私、鬼族を討伐します。鬼族の住処を教えてください。」

「リリアリー、待ってくれ。」

ルドウィンは前のことを思い出していた。

龍神のことだ。鬼族にも鬼神のような強い上位種がいるかもしれない。

ルドウィンたちが行っても、勝てる見込みがない敵かもしれない。

そう考えていると、リリアリーが話しかけてきた。

「ルドウィン。あれこれ考えて行動しないより、行動してからあれこれ考えた方が良い場合もあります。イアは仲間です。仲間が苦しそうです。イアの病気が悪化するかもしれません。これ以上に、鬼族を倒す動機などありません。」

「……わかった。」

リリアリーの言う通りだ。イアは最近仲間になったとはいえ、大切な仲間だ。仲間のためなら、1つや2つの困難など、乗り越えてやるさ!

ちらりとイアを見る。

とても苦しそうだ。かわいそうに。奴隷市場に出品され、慣れないことがたくさん起こり、ストレスから免疫力が下がり、流行病がうつってしまったのだろう。

よし、わかった。イアのためなら。

もう油断はしない。

最初から全力を出す。

だからもう、負けない。

「ああ。鬼族を倒しに行こう!イアのため、仲間のため、鬼退治だ!!」

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