【長編小説】BADEND小説の世界に、小説の登場人物として転生した結果。〜全てを知る俺がこのBADEND小説をHAPPYENDへ〜9話

「イア、少しの間、待っていてくれ。」

ルドウィンはそう言って、イアの熱い頬を撫でた。

「じゃあ、リリアリー、きてくれ。ルーナとティルシーはイアと一緒にお留守番をよろしく頼む。」

「わかりました。」

「わかったにゃ!」

ルドウィンたちは2手に分かれた。もし、万が一のことがあった場合に、ルーナとティルシーがいれば、少なくともイアを連れて逃げることができる。

そして、主力のルドウィンとリリアリーが鬼族の討伐依頼をこなす。

その後、うまく討伐できれば、交通網が回復、薬が買えて、イアを救出できる算段だ。

「さて、リリアリー、大仕事だが、鬼族討伐できるか?」

「ああ。任せてくれ。イアのためならなんだってする!」

リリアリーがいてくれるのは心強い。

ルドウィンはパラパラと本を読む。

「ない……な。」

本に悲惨な未来は描かれていない。白紙だ。つまり、まだ未来は確定しておらず、悲惨な未来が訪れる可能性は確定していない。

ルドウィンは、ギルドに頼んで鬼族討伐の依頼を受けた。

その後、ギルドから依頼主の屋敷の情報をもらい、依頼主の屋敷を訪ねた。

「旅の方、ようこそいらっしゃいました。話は伺っております。こちらです。」

屋敷の門の前に着くと、初老の屋敷の使用人に案内され、客間に通された。屋敷の内部は豪華な作りで、茶菓子とお茶がテーブルに置かれていた。

「こちらで少々お待ちください。」

初老の男性が客間を後にした。

するとしばらく経って、依頼主と思われる、豪華な指輪やアクセサリーを身につけた、お金持ちそうな男性が入ってきた。

「私が依頼をした者だ。ここらの領主をしている。我が領地に鬼族が居座ってな。商売がしにくくなって困っている。討伐を頼む。鬼族が居座っているのは、ここだ。」

そう言って依頼主が取り出したのが、ここら周辺の地図だ。

地図上にバッテンされているのが、鬼族が居座る場所だろう。周りが水で囲まれ、島のようになっている。


「ここまでは船で向かってもらう。船はこちらで用意する。」

そう言って、依頼主が、鬼族が居座っている場所の近くのとある地点を指差した。

「ここに行けば、私の使用人がいる。そこで、その使用人から案内してもらい、居座る住処まで行ってほしい。また、昼だと鬼族にすぐバレてしまう。侵入するなら夜が良いだろう。夜までこの屋敷の客室を使っても良い。」

「ありがとうございます。」

島だとルドウィンたちにとって、都合が良い。

ルドウィンたちは人目があると、能力を隠しながら戦わなくてはならない。

しかし、島などの人目がない場所だったら、能力を使うことができる。

さらに、夜だと、人目が一層つかなくなる。

条件は悪くない。

ルドウィンたちは早速、依頼主の屋敷の客室で夜まで待ち、夜になってから、依頼主が言っていた場所まで向かった。

すると、松明を持っている使用人が待っていた。

「お話は伺っております。こちらに船を隠してありますので、少々お待ちください。」

そう言って、使用人がルドウィンたちに持っていた松明を持たせ、近くの草木によってカモフラージュされていた小舟を出してきた。

小舟を近くの水に浮かべ、使用人が小舟に乗った。

「さあ、出発の準備は整いました。さあ、この小舟に乗ってください。良い到着場所を知っておりますので、私が漕ぎます。」

夜なので、あたりは暗い。そんな暗闇の中、明かりがついている場所がある。おそらくここが鬼族の住処なのだろう。おそらく敵の松明の明かりに違いない。これなら、こちらに気付かれることはないだろう。

また、この条件なら、能力を存分に使うことができるだろう。

ルドウィンたちは船に乗り込み、使用人が松明の明かりを消し、島まで漕いでくれた。

しばらくすると、明かりがだんだんと近づいてきた。

すると、鬼族の住処が見えてきた。

やはり、あかりは松明の光だ。松明の周りに、何人か鬼族が武器を持って見張っている。

使用人は、見張りの鬼族に見つからないように、迂回して島の外側に船をつけた。

「さあ、私ができることはここまでです。ご武運を。」

ルドウィンたちは使用人にお礼を言い、船からおり、島の岩に降り立った。

岩の上を歩いていき、物陰に隠れながら、あかりの方へ向かった。

すると、鬼族がいた。

鬼族は木でできた高台に1人、そしておそらく鬼族の住処であろう木杭で守られた木の要塞の入り口に3人いた。

鬼族がどんな力を持っているかわからない以上、逃げ道は確保しなければならない。

もしもの時は、リリアリーがその驚異的な身体能力で、泳いで逃げ、ルドウィンは能力を使って飛行し、逃げる。

この暗闇だから、おそらく逃げるまでの間なら、能力を使って空を飛んだり、水泳したりしても大丈夫だろう。

ただ、逃げ道を敵に塞がれると困るので、海から一直線に逃げる道を確保しながら敵を倒さなければならない。

そのために、まず、高台にいる鬼族を倒さなければならない。

「リリアリー、高台を頼む。」

「わかった。」

リリアリーはそこらの小石を一つ掴み、ビュッと高台の鬼に向けて投石した。

すると高台の鬼族の頭にあたり、鬼族は気絶してしまった。

「よし、リリアリー、高台に気づかれずに行けるか?」

「やってみよう。」

リリアリーはそう言ってまた小石を掴み、3人の入り口にいる鬼族のそばに投げた。

鬼族たちは何か物音がしたので、その場所を見た。

するとその瞬間、リリアリーが素早く高台へと向かい、高台の麓まで来て、ジャンプし、高台へと登った。

ルドウィンは、3人の隙を見て、鬼族の住処の入り口の近くまで行き、ルドウィンも、リリアリーのように小石を使い、気をひいてから、敵を1人倒した。

すると、小石で気を引いていた2人の敵に気づかれた。

それを見ていたリリアリーが素早く片方の1人を倒し、それに驚いたもう片方の鬼族をルドウィンが倒した。

鬼族の不意をついた形になったので、簡単に倒せた。

そして、見張りがいなくなったので、安全に進める。

ルドウィンたちは、入り口から、鬼族の住処に入った。

鬼族の住処は、文明的とはいえなかった。

木杭の外壁が作られて、囲われている以外には、ほぼ自然にある石や、おそらく人間から略奪してきたであろう鍋や皿や食べ物が無造作に置かれている。

おそらくこの木杭も、鬼族達が作ったとは到底思えず、人間達の村から略奪したものだろう。

そんな鬼族の住処には鬼族達がたくさん寝ていた。

鬼族の女子供達もそこで寝ていた。

鬼族とはいえ、無防備な女子供に手をかけるのは気が引ける。

だが、イアの薬のためだ。

しかし……。

そう考えながら躊躇していると、野太い声が聞こえた。

「何者だ。」

一際際立つ、強者のオーラを放っている鬼族の男が奥に座っていた。

ギラリと光る目が、ルドウィンたちを睨みつけている。

その声でルドウィンたちに気づいた鬼族達が戦闘体制に入った。女子供は避難し、見張りの鬼族達が武器を持ってやってきた。

こうなってしまえば、仕方がない。

「リリアリー、戦闘準備は良いか?」

「ああ。いつでも良いぞ。」

ルドウィンの隣にはリリアリーがいる。

心強い。

そして、本を取り出す。

ページをめくる。

未来のページには、何も書かれていない。あの時のような、望んでいない未来も描かれていない。

白紙だ。

いける!

「さあ、鬼退治だ!」

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