【オリジナル長編小説】BADEND小説の世界に、小説の登場人物として転生した結果。〜全てを知る俺がこの駄作をHAPPYENDへ〜1話

俺の名前は田中。

某小説投稿サイトが好きな、高校2年生だ。

その小説投稿サイトで気になった作品がある。

「王〜崩落した世界より〜」だ。

結末は救いようのないBADエンドで、印象に残っている。

しかも信じられないのだが、作者のあとがきによるとこの小説にはどうやら続きがあるらしい。

あの後からどう続くのか、とても想像ができない。

どう続けるつもりだ……?

俺は興味本位で「王〜崩落した世界より〜」をブックマークした。

……それから1年経った。

俺は日常を過ごしていた。

いつも通り学校へ通う日常を。

俺はいつも思っていた。

小説のような心踊る非日常が自分に巻き起こらないだろうか。

だが、現実はそう簡単に非日常は起こらない。

平凡な日々が続くだけ。

淡々と続くだけ……。

家に帰宅後、いつもの小説サイトを開く。

更新は……ない。

「王〜崩落した世界より〜」の更新はあれから1年以上ない。

そうか……もう、一年たったか……。

小説の投稿日付を見ながら、そう思った。

「さて、もうそろそろ潮時か…」

俺は「王〜崩落した世界より〜」のブックマークを外そうと操作した。

その時。

パソコンの画面が歪んだ。

かと思った瞬間。眩い光が俺を包んだ。

「!」

俺は咄嗟に目を手で覆った。

次の瞬間……。

俺の目の前には信じられない光景が広がっていた。

「この景色は……!」

そう、紛れも無い、この景色は、「王〜崩落した世界より〜」の火ノ国であった……。

「ま、まさか…!」

俺は目の前に広がる広大な景色に思わず唾を飲み込んだ。

雲と青い空が広がり、火ノ国はその空に浮かぶ天空要塞だった。

たくさんの島々が浮いていて、それらが橋でつながっている。

飛空挺や、ドラゴンのようなモンスターが、島々を行き来している。

モンスターには人が乗っているようだ。

俺はその景色を、城の高い位置にあるバルコニーで眺めている。

「どうかしましたかな?我が右腕、ルドウィンよ。」

「…!」

中世のヨーロッパの王のような、厳格そうな服に身を包めている60代くらいの男性が俺に話しかけてきた。

俺はルドウィンなのか…!

となると、俺に今話しかけたのが火ノ国、国王陛下……か。

俺は状況を飲み込むため、頭をフル回転させた。

おそらく俺は、今、小説「王〜崩落した世界より〜」の登場人物、火ノ国国王陛下の右腕、ルドウィンとして、小説内の世界に転生してきた。

そして、目の前にいるのは火ノ国の国王陛下。

某有名サイトをいつもみていることもあって、俺は、異世界転生の飲み込みは早いのだ。

「あ、ルドウィン、その手に持っているもの、王宮の王立図書館から持ち出したのかな?本は原則持ち出し禁止ですぞ?」

「本?」

俺は言われて、視線を落とした。

すると……俺は一冊の本を持っていた。

『王〜崩落した世界より〜』

そう、俺が持っていたのはこの世界の題名の本。

慌ててざっと読んでみた。

内容は……少し変わっているが、大まかに俺が知っている小説の内容と一致する。

「ルドウィン、その本は、みたことがないが……、おそらく王立図書館のものだろう?王立図書館の本は図書館外への持ち出し禁止ですぞ。後で王立図書館にきちんと戻しておくように。では、私は最愛の息子が待っておりますのでな。ああ、早く愛くるしい息子の小さき手を握りたいものだ。先に失礼いたしますぞ。」

「……。」

火ノ国の国王の言うことが正しければ、まだ国王と息子が一緒に火ノ国の城にいるので、息子が国王の試練を受ける前だ。

俺はもう一度この本でこの世界のあらすじをざっと読み返した。

1 .天界の国王の息子が国王の試練を受ける旅に出る。

2 .その最中に地上に住む人間が天界を滅ぼし、BADエンドだ。

せっかく念願の異世界転生したのにBADエンドの結末になるなんて、そんなのは嫌だ。

だから、俺が現代の知識を持って、この世界をHAPPYエンドに導き、俺の過ごしやすい世界に変えてやろうではないか!

そのために、まず、未来に起こる戦争を回避しなくでは!

そのために、このあとの国王の息子の試練を中止にし、地上からの侵攻を阻止することに力を注いだほうが良い。

そうと決まれば、時間は限られている。

即行動だ。

「国王陛下、お待ちください。」

「なんじゃ?息子とのスキンシップが待っておるのじゃが…」

「国王陛下、右腕として、友人として進言いたします。将来の息子の国王の試練を中止してください。」

「……なんじゃと?」

国王の顔色が変わった。

「とある情報筋より、地上人が、天界を侵攻する計画が着々と進められていることを知りました。ご子息様の国王の試練の時の隙をついて、軍事行動する計画です」

「……。」

「おそらく、国内、もしくは同盟国内に、地上人との内通者がいるものかと……。そうでなければこの計画は立てられません。」

「そうだな……。」

国王は一息つき、言った。

「この情報の情報源は?」

「それは……、」

真実は言えない。だって情報源はこの世界の小説だ。今全てを言ってしまえば信じてもらえないどころか、不審人物として逮捕される可能性すらある。

「言えません。」

「なぜじゃ?」

「言えません。」

「……そうか。お主は確かにわしの優秀な右腕じゃ。そして、信頼のおける一番の部下である。だが、その出所不明の情報のため、息子の…大事な後継の王位継承の儀式を中止にすることはできん。たとえお主の言い分であったとしてもじゃ。」

「陛下……。」

そうか。冷静になれば俺でもわかる。

おそらく国王の王位継承の儀式は長い間準備が重ねられ、各国と調整して日程が決められている。

いくら信用のある部下とは言え、一人の部下の言うことを間に受け、さらに出所不明の情報に踊らされたとなれば、国の威厳が落ちる。

時に、王は反対を押し切り、強引に押し通すことも必要なのだ。

それが国の重要な伝統的な儀式なら尚更だ。

「……。」

「……と、本来ならこう言うところじゃが、わしに考えがある。」

「?」

「どうもお主の言っていることは嘘をついていないように感じる…気がかりなこともあるしな……そこで、わしがお主に命ずる。」

国王が手を差し伸べた。

「お主に特別な任務じゃ。右腕として、今から秘密裏に動き、地上の観察、および敵対者の排除、戦争にならないようにスパイとして動いてほしいんじゃ。」

「……陛下……。」

おそらくこれは大変な任務になるだろう。

しかし、せっかく異世界転生したのだ。

そして初めての仕事がもらえたのだ。

さらに、この仕事は、俺がこの小説をHAPPYエンドへと導く足掛かりになるであろう。

断る理由は……なかった。

「陛下、その任務、謹んでお受けいたします。」

「よろしく頼むぞ、ルドウィンよ。」

国王陛下は俺、ルドウィンと硬い握手をした。

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